Z世代の心模様を考える /連載:ものづくり人のためのドラッカー[その5]

*2025年2月25日(木)

  
寒気の中にも早春の息吹が感じられる頃となりました。
皆様いかがお過ごしでしょうか。

本日は、

  • 2000年以降に生まれたZ世代はどのような心持ちで日々を送っているのか
  • 心を育てるJTEXの講座のご紹介
  • 新シリーズ「ものづくり人のためのドラッカー」その5

について、ご案内いたします。ぜひ最後までご拝読いただければ幸いです。
  

Z世代の心模様を考える



 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」調査で、2021年卒業者の就職後3年以内の離職率が、新規高卒で38.4%、新規大卒で34.9%でした。
 離職理由では、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった。」「職場の人間関係が好ましくなかった。」が多く、他社の賃金や待遇情報をSNSや転職アプリで簡単に入手できる現在、表面的な情報で転職したものの、希望と現実が合っていないケースも多く、転職を繰り返す人も多いと指摘されています。
 3年以内の離職率は1995年の大学卒業者から30%をほぼ超えており、急速に離職率が高まっているわけではありませんが、社会人として一人前になれないまま、転職を繰り返す人が出ている現状は、見逃せないものがあります。
 さて、日本人の幸福度は先進諸国の中で最下位という中、2000年以降に生まれた世代はどのような心持ちで日々を送っているのか見ていきましょう。



衝撃的な米国での共感性の低下調査

 米国では、1979年→2009年の30年間で、大学生の「共感的関心」が48%低下、「自分以外への視点取得能力」は34%低下し、大きく注目されました。他者の内面を思いやり、他者の視点に立って判断する力が年々低下している結果が示されたのです。
 要因は大きく2点であり、

    1.新自由主義での成功への圧力
    2.日常がSNS利用のコミュニケーションが主体となっている。

と言われています。1,2の環境は、米国だけのことではなく、日本においても同様です。この要因がどのような心模様を引き起こしているのかを見ていきます。

新自由主義の影響とGPA制度導入による心模様

 2010年以降、新自由主義(ネオリベラリズム)の影響である「自由競争」「自己責任」の具現化が教育にも大きな影響を与え、日本でも国立大学をはじめ大学経営そのものに大きな改革がありました。
GPA 制度は、アメリカなどの大学で一般的に行われている世界標準的な成績評価方法で、大学改革の中で、日本でも多くの大学で導入されてきました。
GPA とは、「GradePointAverage」の略で、履修科目の成績評価を点数化し、その平均で評価基準を与える制度です。このGPAを学期ごとに比較することで、学修した成果を判断する目安としています。
 GPAの導入により、学生は、

  • 履修登録した授業に可能な限り出席する。
  • 課題はもれなくこなす。
  • 評価のマイナスポイントが少しでもつかないようにする。

細部まで管理し、学習の成果が数値化される中で、多くの学生が与えられたメニューを効率よくミスなくこなすようになったプラス面と並行して、大学教員からは以下のようなマイナス面が報告されています。

  • 親や教員、権威や既存の枠組みに従順に従い、主体性が減退していく。
  • 他者の気持ちへの感性を鈍らせる。



「タイパ」「コスパ」は、精一杯のしるし

つまり、思考をシンプルにして、「タイパ」や「コスパ」を意識し、効率的に競争に生き残るための行動を取るようになったのです。多くの学生が独創的な挑戦をリスクとして避け、友達の心のうちを思いやったり、喜怒哀楽を共にしたりする余裕はないという実感を持つようになったのです。
また、2017年実施の文部科学省委託調査 『国内大学のGPAの算定及び活用に係る実態の把握に関する調査研究』では、以下の課題が示されました。
「GPAは履修放棄の減少には好ましいが、広い分野の学問に触れる機会を失わせることにつながるのではないかという問題にも対応することが必要とされている。」
これは、与えられた課題に集中させることはできるが、広い視野でものごとを考える機会をせっかくの学生生活で与えられていないということのようです。

SNSによるリアル体験機会の減少による心模様

物心ついたときには、インターネットやSNSが身近にある世代は、どのような日常を送っているのでしょうか。

  • 学生は常に携帯端末を持ち歩き、複数のアカウントを使い分け、SNS、クラウドPCを駆使する生活を送っている。
  • 教室ではスマホで授業のメモを取り、板書は写真、資料は検索、課題はWeb提出。
  • 友人とのやりとりも多くがチャット(文字)を媒体としている。

2020年4月に全国大学生協連合会が行った調査で、「相談できる人との情報交換・相談ごとに何を使うか」という問いへの回答ではSNSやLINEなど文字やチャット等が中心が、 57.3%でした。
ネット上のヴァーチャルな世界で人と関わるとは、自分の望むタイミングで、自分の選んだ対象にだけ接触し、いつでもそのつながりを切断することができる関係です。
 こうした世代においては、人と会うことについての回避欲求が高まりつつあると言われています。内面で何を思っているがわからない他者に近づくことは、不意に相手から傷つけられたり、逆に自分が傷つけてしまうかもというリスクを感じるのです。



心を育てる十文字の関係と自分らしさ

気に入ったヴァーチャルな世界で、複数のアカウントで断片化した複数の自己によって、他者とつながっているような関係性が常態化していると、ひとかたまりの統合された自己を確立しにくいという深刻な問題も指摘されています。
 精神科医吉川武彦は、心の状態を三角錐で説明しています。「心の三角錐」は、底面が「自分らしさ」、その上にのる三角の3つ面が「知」「情」「意」です。三角錐は、「知」「情」「意」が優秀で高く伸びたとしても、底面がしっかりと広がっていないと、倒れやすいのです。
吉川は、複雑に見える人間関係を上・下・左右の3つの十文字とし、人は、それをらせん状に繰り返し進むことで「自分らしさ」を獲得し心を成長させていくと述べています。
第1ステップは年上の人に依存することができ、「人を信頼する心」が育つ関係です。
第2ステップは自分よりも年下の人とつきあうことによって「自制するこころ」が育つ関係です。
第3ステップは同年代の人との争いを通じて「自己認識を獲得し、他者認識を育てる」関係です。人はこの関係を経て、自分は何者かということを理解します。
自立とは、こうした3つのステップを順繰りに上っていってなされるものです。「自分の欲求」と「他者や社会の規範」との折り合いをつけ、規範だけに占領されない「自分らしさ」を獲得していくのです。こうして、底面である「自分らしさ」がしっかりすることで、自己肯定感も高まり、独創的なチャレンジが可能となってくるのです。



心の育て直しとウェルビーイングな職場

企業の新卒採用にあたっての重視項目は「コミュニケーション能力」1位、「主体性」が2位、「チャレンジ精神」、「協調性」、「誠実性」が3位から5位となります。しかし、今まで見てきたように、現在の若者を取り巻く環境は、「コミュニケーション能力」や「自ら考え行動する主体性」や「チャレンジ精神」が育ちにくい要素が多くありました。
 学校でのテストの答えは1つです。しかし、社会には正解が1つしかない問題など存在しません。「タイパ」を優先して、すぐに答えを求め、効率的に回答しようとすると、深い理解ができず、浅い理解にとどまってしまい短絡的な考え方になってしまいます。
 生成AIの目覚ましい発展が予想される今日、答えが一つのものはAIに任せればよく、これから、企業が働く人に求めたいのは

  • あいまいさの許容(多様な価値観を理解し、その只中に居られる)
  • 失敗の再評価-落ち込むだけでなく、目的外の発見を捨てずにおける
  • 感性を磨き体験からアイデアを発見できる

など、アナログ的態度から発することができる能力です。

Z世代は、従来とは異なった感性を持ち、「自分が認められる環境で、周りと競争ではなく、共創しながら人の役に立ちたい」という価値観をもっていると言われています。
先ほどの十文字の人間関係は、社会人になってからも続いています。職場の上司や先輩、同僚や後輩との関係をらせん階段を上るように成長していけばよいのです。
 すぐに答えが出なくてもその状態に耐えて挑み続ける、多角的・長期的な視野でものごとを考えることを、仕事や仲間を通じて学び成長していってほしいものです。
 自己肯定感が低く、働きがいが少ない、自殺率が高いなど、幸福度の低さは様々な課題が出てきます。この閉塞感を打破するためにも「幸せに生きる」という発想を持ち、ウェルビーイングの考え方を皆が共有することが大切ではないでしょうか。




<心を育てるJTEXの講座>

【5月開講】健やかに私らしく働くウェルビーイング入門 マンガで学ぶ「心理的安全性」~働きやすい職場づくり 自己肯定感を引き出す部下の育て方
【4月開講】無意識の思い込みと向き合うアンコンシャスバイアス講座 【6月開講】新たな可能性を見いだす「失敗を活かす仕事術」 SDGs 世界を生き抜く教養の力 リベラルアーツ入門





 

新シリーズ「ものづくり人のためのドラッカー」
 ~イノベーションは天才のひらめきではなく、明日に向けた仕事である
                          著者 浅沼 宏和

“ものづくり人“とは、ものづくりに関わる、経営者、技術者・技能者、営業・管理部門までのすべての人を、そう呼んでいます。
この連載はドラッカーの11冊の著書からリベラルアーツとしてのドラッカーをまとめたものです。
どこかに、役に立つ一言が含まれていることと思います。
ぜひ、引き続きご愛読いただきたく、連載を開始いたします。
 
 
 

その5 組織の欠陥を示す兆候」と「組織構造の七つの原則


 

 どれほど綿密に組織づくりを行っても完璧な組織はつくれません。ドラッカーは「完璧な組織構造はあり得ない。せいぜいできることは問題を起こさない組織をつくることである。」といっています。

【1】組織の欠陥を示す兆候とは

組織には、職能別組織とチーム型組織という正反対な要素が含まれ、また完璧な経営戦略というものもないため、組織を完璧にすることは不可能なのです。しかし、組織構造の欠陥を示す兆候となるものは、ある程度わかっているのです。

1.組織の階層増加

 組織の階層が増えれば増えるほど、マネジメントが困難になります。階層が増加すると、組織内で十分なコミュニケーションを行うことや協調性を保つことが難しくなるからです。

2.問題が頻繁に発生

 組織に関わる問題が頻繁に発生するということは、組織の基本単位や活動同士の関係に何か間違いがあるということです。あらためて、活動の分析と基本単位の設定をやり直す必要があります。組織づくりの基本は、正しい分析にあります。

3.不適切な仕事

 中核的な人材が些細な仕事や的外れな問題に取り組んでいる場合は、組織構造上の問題が疑われます。組織構造は、重要な問題・成果・業績へと関心を向けさせるものでなければなりません。

4.頻繁な会議

 多くの人を集める会議が頻繁に行われるということ自体が、組織上の問題の存在を示します。会議は組織構造を補完する手段です。多すぎる会議は組織構造の問題なのです。ドラッカーは「理想的な組織とは、会議なしで動く組織である。」といっています。

5.多数の調整役や補佐役の存在

 調整役や補佐役は、組織構造の不備によって必要になるのです。組織の活動や仕事が細分化され過ぎると、調整役や補佐役のように成果のあがらない仕事をする人が増えていくのです。
 
こうした兆候を見つけたら、組織構造の問題が存在している可能性が高いのです。しかし、安易な組織改革にも注意が必要です。どんな組織にも、ある程度はこうした問題はあるものなのです。ドラッカーは「組織改革とは外科手術のようなものなので、安易に行ってならない。」と慎重に熟慮するように注意を促しています。

【2】組織構造の七つの原則

さて、それでは組織づくりがうまくいくための原則について見てみましょう。

1.明快さ

 組織は、明快でわかりやすくなければなりません。マニュアルやガイドがなくても自分の立場や所属がはっきりとわかる明快さが求められます。

2.経済性

 人を成果に向けて動かすためにかかる手間や資源が少ないほど、良い組織構造といえます。最大成果をあげるべき人が本来の仕事に専念できる組織構造にしなければなりません。

3.方向付け

 組織構造は人を成果に向けさせるものでなければなりません。管理技術や専門知識で評価される人よりも、成果や業績で評価される人数を増やすことがポイントです。

4.適切な仕事

 すべての人に具体的・個別的な仕事が与えられなければなりません。成果が明確に定義されている仕事だけが理解可能です。

5.適切なレベルでの意思決定

 なんでも上層部で決定しなければならない組織構造は誤りです。できる限り、現場に近いところで意思決定が行われる組織構造が正しいのです。

6.安定性と適応力

 組織は、安定的であると同時に状況変化に適応する能力も必要です。

7.永続性と新陳代謝

 組織は、永続性を持つと同時に新陳代謝が必要です。この正反対の要素のバランスを取るために必要なのが有能な人材です。将来のリーダーを育てるためには、チャレンジ性のある大きな仕事を与える必要があります。継続学習を求められない仕事ばかりでは、組織は永続できないのです。

次回 その6「組織のリーダーの仕事」

著者紹介

 浅沼 宏和
早稲田大学政治経済学部卒、中央大学大学院法学研究科卒、名古屋学院大学 論文博士
社会制度変容の力学 -内部統制制度・リスクマネジメント・コーポレートガバナンス一体化の論理

日本会計研究学会会員
ドラッカー学会会員
(株)TMAコンサルティング 代表
浅沼総合会計事務所 代表 

 

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2025年2月25日