新入社員の「いま」をお伝えさせていただきます /新企画連載:随想 鬼平犯科帳[第9回]
*2023年4月6日(木) ↑2023年大阪城公園の桜
本日は、
- 新入社員の「いま」
- 石岡慎太郎(JTEX理事長)による池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』をもとにした「鬼平犯科帳随想」
第9話
ぜひ最後までお読みください。
新入社員の“いま”をお伝えさせていただきます
新入社員の皆さんは、昨年とまた違った風を職場に運んでくれると思います。
皆さんの“いま”を昨年に引き続き今年もお伝えさせていただきます。
一日も早く企業にとって重要な幹となり、一つひとつ確実に成果をあげられることを切に願っております。
内定者教育⇒新入社員研修⇒1年目振り返り研修⇒若手社員研修・・・
様々な視点からご活用いただいているお客様より情報交換させていただいた内容を、皆様に発信させていただきます。
今年も「オンライン」から「対面研修」に戻されたケースが更に増えたと思います。
コロナ禍の影響で新入社員研修のやり方も試行錯誤された数年でしたが、以前のワイガヤ研修も見直され活発な意見交換ができる環境に身を置いた新入社員研修の光景が飛び込んできています。
早期戦力化に向け内定段階から計画的な教育が重要です。
自律型社員へ育て上げるには手間と時間が必要であり、早いうちから育成を始めなくてはいけません。
【新入社員導入⇒フォローアップ⇒1年目振り返り】=総ざらい研修においてしっかりとした育成方針を出されているケースもより目立つようになってきました。
と同時に、私共に新入社員の多様化した学習ニーズに対し、個別対応が可能な通信教育の効果を併用いただいております。
今年度の新入社員のタイプとは
「可能性は∞(無限大)AIチャットボットタイプ」
令和5年(2023年度)新入社員タイプと人事労務分野の情報機関である産労総合研究所が発表しました。
新型コロナウイルス感染症の猛威のなか、大学生活のほとんどをオンラインのカリキュラムで過ごした今年の新入社員。インターンシップや就職活動もオンラインでの選考がごく自然に盛り込まれ、むしろ対面での機会を増やそうという流れの中で入社を迎えた彼らは、対面でのコミュニケーション不足から、こちらに特別意図のない発言やしぐさでも、ストレスに感じてしまうことがある。
一方で、知らないことがあればその場でごく自然に検索を始めるデジタルネイティブ世代である彼らは、さまざまなツールを扱い答えを導き出すことにかけては、すでに高いスキルをもっている。
先輩社員は、彼らの未熟な面や不安をこれまで以上に汲み取りながらコミュニケーションを取ってほしい。AIチャットボットが適切なデータを取得することで進化していくように、彼らは適切なアドバイスを受けることで、想定を超える成果を発揮する可能性に満ちている。
過去の新社会人のタイプ:入社年度別新入社員タイプ一覧
入社年度 | タイプ | 特徴 |
2023年 令和5年 |
可能性は∞(無限大) AIチャットボットタイプ |
新型コロナウイルス感染症の猛威のなか、大学生活のほとんどをオンラインのカリキュラムで過ごした今年の新入社員。インターンシップや就職活動もオンラインでの選考がごく自然に盛り込まれ、むしろ対面での機会を増やそうという流れの中で入社を迎えた彼らは、対面でのコミュニケーション不足から、こちらに特別意図のない発言やしぐさでも、ストレスに感じてしまうことがある。一方で、知らないことがあればその場でごく自然に検索を始めるデジタルネイティブ世代である彼らは、さまざまなツールを扱い答えを導き出すことにかけては、すでに高いスキルをもっている。 先輩社員は、彼らの未熟な面や不安をこれまで以上に汲み取りながらコミュニケーションを取ってほしい。AIチャットボットが適切なデータを取得することで進化していくように、彼らは適切なアドバイスを受けることで、想定を超える成果を発揮する可能性に満ちている。 |
2022年 令和4年 |
新感覚の二刀流タイプ | 新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、大学・後半期にさまざまな活動制限を受けた今年の新入社員。インターンシップや就職活動を、対面とオンラインの2つのスタイルで二刀流のようにこなして、入社式を迎えた。しかし、就活中に職場の雰囲気や仕事に関する情報が得にくかったこともあり、入社後は、思い描いていたイメージと実際とのギャップにとまどいそうだ。先輩社員は、これまでの新入社員とは異なる新感覚(オンライン慣れ、対面コミュニケーションの不慣れ、配属・勤務地へのこだわり、SDGsへの興味、タイムパフォーマンス志向等)や未熟にみえる言動を受け止めたうえで温かく交流し、1人ひとりをみつめた育成支援をしてほしい。そうすれば、才能が開花し、環境変化にも適応できる「リアル二刀流」になっていくだろう。 |
2021年 令和3年 |
仲間が恋しい ソロキャンプタイプ |
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて状況が一変するなか、オンラインでつながりつつも、不安で孤独な就職活動を行うこととなった。初めてた?らけのソロキャンプのように、まごつくことも多かったが、気持ちを切り替え、工夫し、たくましくなった。自由さ・気楽さという魅力に気づいた人もいる。しかし、一方で、仲間への恋しさも募っている。 |
2020年 令和2年 |
結果が出せる?! 厚底シューズタイプ |
衝撃を吸収し身体に優しいということで以前から話題になっていた厚底シューズ。今や、最新テクノロジーを組み込み、ノウハウの蓄積によって、駅伝やマラソン等の記録を更新し、世界的に期待・注目を集めている。これは、ITの進展と共に育ち、先輩たちのノウハウをうまく活かして就活を乗り切った今年の新入社員の姿と重なる。良い結果を生み出すには、走法を変更する等(コミュニケーション・指導や働き方の変更等)準備や調整が必要。 |
2019年 令和元年 平成31年 |
呼びかけ次第の AIスピーカータイプ |
注目のAIスピーカー(引き続きの売り手市場)。多機能だが、機能を十分に発揮させるためには細かい設定(丁寧な育成)や別の補助装置(環境整備)が必要。最初の呼びかけが気恥ずかしいが(オーケー!とか)、それなしには何も始まらない。多くの新入社員はAIにはできない仕事にチャレンジした いと考えていることをお忘れなく。 |
2018年 平成30年 |
SNSを駆使する チームパシュートタイプ |
オリンピックで金メダルを獲得した女子チームパシュート。3人が順序を入れ換えながらリンクを疾走する姿が記憶に残る。今春の新入社員は、ここ数年続く売り手市場傾向を追い風にスピーディーに就職活動を終えることができた。ひところの就職「氷」河期とは様変わりである。とはいうものの、学生にとって就活は学生時代の一大事業であることに変わりはない。少数の仲間同士でSNSを活用し、綿密な情報交換で協力関係を構築し、内定というゴールをめざした。就活は短期決戦だったが、入社すればおよそ40年もの長期戦である。自分なりのテーマをもって仕事をする努力を怠れば周回遅れも。 |
2017年 平成29年 |
キャラクター捕獲 ゲーム型 |
キャラクター(就職先)は数多くあり、比較的容易に捕獲(内定)出来たようだ。一方で、レアキャラ(優良企業)を捕まえるのはやはり難しい。すばやく(採用活動の前倒し)捕獲するためにはネット・SNS を駆使して情報収集し、スマホを片手に東奔西走しなければならない。必死になりすぎてうっかり危険地帯(ブラック企業)に入らぬように注意が必要だ。はじめは熱中して取り組むが、飽きやすい傾向も(早期離職)。モチベーションを維持するためにも新しいイベントを準備して、飽きさせぬような注意が必要(やりがい、目標の提供)。 |
2016年 平成28年 |
ドローン型 | 強い風(就職活動日程や経済状況などのめまぐるしい変化)にあおられたが、なんとか自律飛行を保ち、目標地点に着地(希望の内定を確保)できた者が多かった。さらなる技術革新(スキルアップ)によって、様々な場面での貢献が期待できる。内外ともに社会の転換期にあるため、世界を広く俯瞰できるようになってほしい。なお夜間飛行(深夜残業)や目視外飛行は規制されており、ルールを守った運用や使用者の技量(ワークライフバランスへの配慮や適性の見極め)も必要。 |
2015年 平成27年 |
消せるボールペン型 | 見かけはありきたりなボールペンだが、その機能は大きく異なっている。見かけだけで判断して、書き直しができる機能(変化に対応できる柔軟性)を活用しなければもったいない。ただ注意も必要。不用意に熱を入れる(熱血指導する)と、色(個性)が消えてしまったり、使い勝手の良さから酷使しすぎると、インクが切れてしまう(離職してしまう)。 |
2014年 平成26年 |
自動ブレーキ型 | 知識豊富で敏感。就職活動も手堅く進め、そこそこの内定を得ると、壁にぶつかる前に活動を終了。何事も安全運転の傾向がある。人を傷つけない安心感はあるが、どこか馬力不足との声も。どんな環境でも自在に運転できるようになるには、高感度センサーを活用した開発(指導、育成)が必要。 |
2013年 平成25年 |
ロボット掃除機型 | 一見どれも均一的で区別がつきにくいが、部屋の隅々まで効率的に動き回り家事など時間の短縮に役立つ(就職活動期間が2か月短縮されたなかで、効率よく会社訪問をすることが求められた)。しかし段差(プレッシャー)に弱く、たまに行方不明になったり、裏返しになってもがき続けたりすることもある。能力を発揮させるには環境整備(職場のフォローや丁寧な育成)が必要。 |
2012年 平成24年 |
奇跡の一本松型 | 今年の新入社員についても、前例のない厳しい就職戦線を潜って残った頑張りを称えたい。これからの人生においても自然災害をはじめ「想定外」の事態に直面することもあろうが、その困難を乗り越えていくことが大いに期待される。今のところは未知数だが、先輩の胸を借りる(接木)などしながらその個性や能力(種子や穂) を育てて行けば、やがてはどんな部署でもやっていける(移植)だろうし、他の仲間とつながって大きく育っていく(松原)だろう。 |
2011年 平成23年 |
(はやぶさ型) | ※東日本大震災の発生により発表を見送り。 宇宙探査機「はやぶさ」が7年にもおよぶ長旅から帰還したことが多くの人に感動を与えた。最初は音信不通になったり、制御不能になったりでハラハラさせられるが、長い目で見れば期待した成果をあげることができるだろう。あきらめずに根気よくシグナルを送り続けることが肝心だ。 |
2010年 平成22年 |
ETC型 | 性急に関係を築こうとすると直前まで心の「バー」が開かないので、スピードの出し過ぎにご用心。IT活用には長けているが、人との直接的な対話がなくなるのが心配。 |
2009年 平成21年 |
エコバック型 | 環境問題(エコ)に関心が強く、節約志向(エコ)で無駄を嫌う傾向があり、折り目正しい。小さくたためて便利だが、使うときには大きく広げる(育成する)必要がある。 |
2008年 平成20年 |
カーリング型 | 働き易い環境作りとばかりにブラシでこすり続けねば、止まったり方向違いの恐れあり。楽勝就職の一方で先行き不安の試合展開は本人の意志(石)次第。 |
2007年 平成19年 |
デイトレーダー型 | 景気回復での大量採用は売り手市場を形成し、就職しても細かい損得勘定でネットを活用して銘柄(会社)を物色し続け、売買を繰り返す(転職)恐れあり。 |
2006年 平成18年 |
ブログ型 | ネット上での交流で、他者に自己認知や共感を求めたがる一方で、他人の評価で萎縮しやすい傾向もあり、暖かい眼差しと共感が育成の鍵。 |
2005年 平成17年 |
発光ダイオード型 | 電流を通す(=ちゃんと指導する)と、きれいに光る(=いい仕事をする)が、決して熱くはならない(=冷めている)。 |
2004年 平成16年 |
ネットオークション型 | ネット上で取引が始まり、良いものには人気が殺到しさっさと売れる一方で、PR不足による売れ残りも多数。一方で、ブランド名やアピールに釣られて高値で落札したものの、入手後にアテが外れることもある。 |
2003年 平成15年 |
カメラ付ケータイ型 | その場で瞬時に情報を取り込み発信するセンスや処理能力を持ち、機能も豊富だが、経験や知識がなかなか蓄積されない。また、中高年者にとって使いこなしきれない側面もある。 |
2002年 平成14年 |
ボディピロー型 | (抱き付き枕)クッション性あり、等身大に近いので気分はいいが、上司・先輩が気ままに扱いすぎると、床に落ちたり(早期退職)、変形しやすいので、素材(新人の質)によっては、いろいろなメンテナンスが必要となる。 |
2001年 平成13年 |
キシリトールガム型 | 種類は豊富、価格も手ごろ。清潔イメージで虫歯(不祥事)予防に効果ありそうで、味は大差ない。 |
2000年 平成12年 |
栄養補助食品型 | ビタミンやミネラル(語学力やパソコン活用能力)を豊富に含み、企業の体力増強に役立ちそうだが、直射日光(叱責)に弱く、賞味期限(試用期間)内に効果(ヤル気)薄れることあり。 |
1999年 平成11年 |
形態安定シャツ型 | 防縮性、耐摩耗性の生地(新人)多く、ソフト仕上げで、丸洗い(厳しい研修・指導)OK。但し型崩れ防止アイロン(注意・指示)必要。 |
1998年 平成10年 |
再生紙型 | 無理な漂白(社風押し付け)はダイオキシン出るが、脱墨技術(育成法)の向上次第で新タイプの紙(新入社員)として大いに市場価値あり。 |
新入社員を育てる3つのコツとは
令和に入り新入社員の傾向も変化してきました。強い承認欲求、報連相の苦手意識や、はっきりとした正解を求める傾向、受け身、心を開く範囲の狭さ、コスパ・タイパのこだわり・・・
そんな中でも、
1.考える 2.価値観 3.承認
それぞれの機会を増やす事に重きを置かれている傾向があるようです。
1.考えてもらう機会を設ける
-
初期に自分で考えて失敗する経験を積ませるなかで「自ら考え判断させる」「失敗しても大丈夫」「精一杯やっての失敗であれば上司・先輩に見放されることはない」等といった考え方を身に付けさせることが大切です。
それには、計画から実行、評価、改善を繰り返すPDCAサイクルが重要であることを伝えます。自分で試行錯誤するほうが成長を期待できます。
自ら考える習慣を身に付けさせるには、はじめから指示しないことが重要で仮説を立て実行し、その結果、自ら改善させる…考える力が必要となります。
2.承認の機会を増やす
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SNSで「いいね!」ここの感覚が、上司・先輩からの承認や褒め言葉にリンクをし、モチベーションの上がり方に変化が出やすい傾向のようです。
仕事において周囲から承認が得られるかどうかで意欲の持ちかたが変わり、結果だけを承認するのではなくて、頑張ってきた過程や仕事に対する姿勢を前向きに評価するのも新人教育育成のポイントです。いまどき新入社員の成長・定着を促すなら、ポジティブフィードバックを増やす変革をしなければなりません。
3.価値観の理解に努める
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新人社員の考え方を聞き出し、理解に努めることが大切です。
働き方が多様化する時代にあって、みんなが同じ考え方というのはありえません。
世代ごとに価値観は違うという認識を持ち、価値観を押し付けるなどの強制は避けることも必要です。新入社員の持つ価値観などの傾向を理解した上で、一人ひとりにあった新人教育の方法を探ることが大切になってきています。
デジタルネイティブ世代の入社により、新入社員を受け入れる立場としてこれまでと同じようなやり方ではうまくいかないことの方が多いはずです。
少しずつ関わり方や価値観の理解に努める過渡期になっています。
入社してきた新入社員が自社で満足のいくキャリアをしっかり歩めるよう現場社員と人事担当者が一丸となって工夫しながら新入社員と向き合うことが強く求められています。
どんな講座が採用されているのか
通信教育を活用し
【レポート提出=納期管理に見立て、修了証=目標達成に繋げる】
※「書く」・「コミュニケーション」・「話す」・・・不動の3大テーマです
ご参考【1】
※上記講座は、新入社員研修でもご採用されるケースも多く、ご検討いただいております。
ご参考【2】
※その時々で最適な情報を・最適なタイミングでご提供できるのが最大の利点だと思います。
新人社員の心理的安全性を担保する
「忙しそうだからあとで質問しよう」「教えてもらったことをすぐにもう一度聞くと怒られそう」等、考えてしまいます。
このような状態は新人の成長スピードを遅くしてしまうため、普段から相談しやすく本音で接しやすい雰囲気づくりを心がる必要があります。
ほんの少しの空き時間に雑談をするだけでも新人社員の印象は異なります。
また、普段から「状況に関係なく遠慮なく質問してよい」と伝えておくのも有効です。新人社員の不安や遠慮を取り除くことができれば、報連相がスムーズに行われ、積極性も生まれやすくなるでしょう。
このような背景から今年度新講座を開講させていただきました
- 心理的安全性を高める仕組みづくりを習得します。
- 心理的安全性の高い職場と低い職場の違いを、マンガを使って分かりやすく説明し、心理的安全性を高めるためのポイントを、具体的にイメージできます。
- 執筆者による解説動画:約30分
ねらい・特色
鬼平犯科帳連載について
息抜きにご一読いただければ幸いです。
作者の池波正太郎氏は19歳のとき(昭和17年)、小平の国民勤労訓練所(戦後の中央職業訓練所)に入り、萱場製作所で2年間、四尺旋盤を使って飛行機の精密部品を作り、そのとき体で覚えたものつくりの手順で、『鬼平犯科帳』を書いたといいます。
このように、この小説の背景は意外に深く、皆様もこの作品から学ばれる点が多いと思います。
第9回 兇剣
『鬼平犯科帳』を読むと、登場人物が食事をする場面が実に多い。しかしそのことによって、季節も人間も生き生きと描かれているように思う。
例をあげると、まずは『兇剣』(文春文庫3巻)の鯉料理の場面である。いけすからひきあげたばかりの鯉を洗いにした、その鯉のうす紅色の、ひきしまったそぎ身が平蔵の歯へ冷たくしみわたった。
「むむ……」
あまりのうまさに長谷川平蔵は、おもわず舌つづみをうち、
「これは、よい」(以下略)
この鯉は春の鯉だが、若葉にうもれた京都・愛宕山の茶屋「平野や」の腰かけで、ひやひやとした山気を感じながらいただくと、まことにおいしい。休暇中であるし、鎮火の神様への参拝も済ませたし、鬼平は珍しく酔っぱらう。
次は、第3回で紹介した『明神の次郎吉』(8巻)のしゃも鍋の場面である。
新鮮な臓物を初夏のころから出まわる新牛蒡のササガキといっしょに出汁で煮ながら食べる。熱いのをふうふういいながら汗をぬぐいぬぐい食べるのは、夏の快味であった。
「うう……こいつはどうも、たまらなくもったいない」(以下略)
蛍の飛ぶ夜に、本所の「五鉄」へ招かれた盗賊の明神は、自分の善行が侍に感謝され、また信州にはない美味な料理を食べて最高の気分になる。なお、「五鉄」は鬼平が青春時代入りびたっていた店で、長官就任後も改方の連絡所等としてひんぱんに使われている。
最後は『火つけ船頭』(16巻)で、鬼平の妻女・久栄が鴨料理を出す場面である。
鴨の肉を醤油と酒を合わせたつけ汁へ漬けておき、これを網焼きにして出すのは、久栄が得意のものだ。(略)それと鴨の脂身を細く細く切って千住葱と合わせた熱い吸物が先ず出た。
「久栄。わしにこのように精をつけて何とする?」
「まあ……」(以下略)
激務の夫のために工夫をこらし、晩秋に鴨料理を出した久栄は、顔を赤らめる。そして「この人は絶対自分が守ろう」と彼女は心に誓うのであった。
以上であるが、池波は「死ぬために食うのだから、念を入れなくてはならないのである。なるべくうまく死にたいからこそ、日々口に入れるものへ念をかけるのである」(『男のリズム』角川文庫)と、毎日の食事を大切にした人である。このため『銀座日記』(新潮文庫)を読んでも、いつどこで何を食べたかが楽しそうに記されている。
しかし、平成2年1月25日の67歳の誕生日が過ぎると、『銀座日記』では、食欲がない、部屋で何度も転ぶ、体重が減るという記述が現れ、2月21日の「今いちばん食べたいものを考えてもおもい浮ばない」という文章で『銀座日記』は終わる。急性白血病であった。
4月29日、病院で銀座「いまむら」の心尽くしの金目鯛の煮つけを少し食べたのが、最後の食事となった。
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2023年総合通信教育ガイドについて
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【発行・編集・著作】 JTEX 職業訓練法人 日本技能教育開発センター 〒162-8488 東京都新宿区岩戸町18 日交神楽坂ビル TEL:03-3235-8686(午前9時~午後5時) |
2023年4月6日