第9回『消えた男』
第69話『消えた男』(『オール読物』昭和48年9月号。文春文庫10巻)は、平蔵が歴代のやる気のない長官と全く違う長官であったことを描く。
筆頭与力・佐嶋忠介は、市中巡回の途中、防火の神を祭る愛宕神社に参詣し、そこで8年前に改め方・同心を辞めた高松繁次郎とばったりと会った。当時の改め方長官は二人の組頭である
そんな高松であったが、佐嶋は近くの芝・神明の小料理屋・
佐嶋は7日後の再会を約して別れたが、すぐに高松へ伝えたいことを思い出し、その後を追いかけると、闇の中からうめき声が聞こえ、抱き起こすと男は息絶えた。近くに
改め方に着いた佐嶋は、長官に今日のことを報告した後、8年前のことを説明した。当時高松は凶賊・
翌朝平蔵の命令で十二名の密偵か集まり、死体を検分したところ、
その日の昼過ぎ、粂八がその六兵衛を訪ねると、半月前に高松がきて、お杉は死に、父親の墓のある中目黒・松久寺に納骨し、近くに居るというので、3日前にきた笹熊につい話したが、昨日から甥の身を心配しているという。
この報告も受けて平蔵はある決心をして松久寺の高松を訪ねると、六兵衛の刺客とみた高松は短刀で鋭く襲ったが、ひざ頭を打たれて転倒した。その上で平蔵は名乗り、その方は8年間二人で
こうして高松は密偵となったが、お杉の傍の小屋に引き続き住み、この年の秋から翌年の夏にかけて大活躍し、五組の盗賊逮捕に貢献した。しかしその夏に高松は小屋で斬殺された。これは六兵衛の雇った仕掛人の仕業であるが、六兵衛は5日前に逃げていた。平蔵は「おれとしたことが、油断するとは」と残念がった。
この年の秋、松久寺に高松とお杉の立派な墓ができた。建てたのは平蔵である。そして平蔵は二人のために永代供養の金子も収めたという。
なお『啞の十蔵』以降、平蔵が部下と共に命を懸けて危険な公務を行う姿を書いてきたつもりだか、次回は池波正太郎が何故このような物語を書いたのかを述べてみたい。