シルバー人材の健康問題への積極的対応を考える

*2022年6月16日(木)

少子高齢化に伴う社会保障制度存続への対応から、2021年4月から「改正高年齢者雇用安定法」が施行され、企業には従業員の70歳までの就業機会の確保が努力義務となりました。
企業においては、若手人材の不足や確保が難しいこともあり、ベテランの高年齢労働者がその実力をあますところなく発揮し活躍いただきたいところです。しかしながら、一方、加齢に伴う心身の衰えから、高年齢労働者の労働災害リスクが増大しています。
今後、シルバー人材が働いている職場が当たり前になる状況において、職場の健康リスクを回避し、安心して力を発揮できるような職場運営、管理監督者によるマネジメントが必要となり、それが組織の活性化、生産性向上に直結していきます。

1.高年齢者の就労と労働災害

「令和2年高齢社会白書」によると、60歳以上の高年齢労働者の雇用は18%増加し、
一方、労働災害による死傷者の60歳以上の割合は、26.6%に増加しています。
労災の頻度をあらわす千人率では、30歳の時に比して、男性で2倍、女性で4倍の発生割合となっています。
主な事故は、

  • 墜落・転落事故 男性 4倍
  • 交通事故    男性 3倍
  • 転倒事故    女性16倍

となっています。
この事故の背景には、加齢による心身の衰えがあります。

2.加齢による身体の衰え

誰でも、加齢により心身は衰えます。

  • 視力・聴力の衰えにより、見えにくさ、聞こえにくさが生じます。
  • 平衡機能・バランス感覚の衰えにより、ふらつきやすくなります。
  • 下肢・背筋の筋力の衰えにより、ふんばりがきかなくなります。
  • 敏捷性が損なわれることにより、とっさに動けなくなります。
  • 柔軟性が少なくなり、身体が固く反応しづらくなります。

これらの症状のために、上記のような事故につながり、また、指示が明確に伝わらない、注意が散漫になるなどの問題も生じてきます。

3.メンタルの衰え

数多くの業務経験や人生経験から、シルバー人材のメンタルは強いというイメージを持つかもしれませんが、現実には加齢により、精神機能、特に認知機能が衰えます。

また、自身だけでなく配偶者の健康問題や、親の介護に直面することもあり、メンタル不調になるケースもあります。加齢による体調の変化により、思うようにならない現実に直面し、気持ちがなえ、高血圧症、高脂血症、癌などの生活習慣病の発生率も高くなることから健康問題の不安も出て、高齢うつを発症するケースもあります。

また、同一労働同一賃金の流れはありますが、実際には、60歳を超える段階で一旦は退職金を受け取り、職責が軽くなるのと同時に報酬額が大幅に減少する場合が多く、モチベーションの維持が難しくなります。

4.職場のコミュニケーション

シルバー人材の課題には、職場でのコミュニケーションが不足していくことも挙げられます。もともと先輩社員であったりすると、若手側から気軽に声をかけにくかったり、ベテラン社員からは、ジェネレーションギャップのために、若い世代とのコミュニケーションをはかれなかったりすることが知られています。

このため、職場内での孤立化を深めたり、情報の共有をはかりにくかったりします。

5.管理監督者の役割

管理監督者はこういったシルバー人材の健康課題を念頭におき、高年齢労働者と不足しがちなコミュニケーションをとり、職場の作業環境管理や作業管理を工夫して、心身の機能低下の影響を小さくする役割があります。

リーダーは、自職場でジェネレーションを超えたコミュニケーションの機会を意識的に作り、自身もまた、その高齢者労働者となった先輩社員と対話していきたいものです。
ベテランが培った知識と経験を、若い部下やメンバーと共有するチャンスが生まれることとなり、高年齢労働者もまた職場に居場所があるという感覚をもちやすくなります。

加えて、人事担当や関係部署と相談しながら、本人の意見を聞き、作業環境管理や作業管理を工夫していきましょう。加齢による衰えには、相当の開きのある個人差があり、一人ひとりの現状をよく聞きとることが大切です。

加齢により、新しいことを習得するのは時間を要しますが、過去の経験や知識に基づいて応用的な仕事を作っていく能力は、高年齢でも保たれています。
変化の激しい時代にこそ、シルバー人材を含めた多様なバックグラウンドをもつ人々がともに働き、多くのアイデアや成果を出すことが求められます。

ダイバーシティ&インクルージョンの考えで、積極的にそれぞれの状況に応じた働き方を模索することにより、シルバー人材の能力を最大限発揮して、業務や事業に活躍していただきましょう。

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2022年6月16日