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中高年の活躍を後押しする「学び合う組織」へ /連載:ものづくり人のためのドラッカー[その45]
*2025年12月11日(木)
カレンダーもいよいよ最後の一枚を残すのみとなりました。いかがお過ごしでしょうか。
本日は、
- 中高年の活躍を後押しする「学び合う組織」
- 「ものづくり人のためのドラッカー」その45
について、ご案内いたします。ぜひ最後までご拝読いただければ幸いです。
中高年の活躍を後押しする「学び合う組織」へ
AIが汎用技術となる予測困難な時代が目の前にせまっています。他方、少子化による人手不足が顕著になっている中、AIの活用もふくめ、働く人のリスキリングの現状はどうなっているのでしょうか。
自律的な学習意欲が少ない日本の現状
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2012年の調査では、OECD加盟国25か国の中で、日本の16歳~65歳が「ITを活用した問題解決能力の平均点」が最も高いという結果(2012年資料)があります。一方、2020年に学生を対象として、「自律的学習を行う自信があるか」という問いでは22か国中の最下位の40%という結果になっています。
また、社会人のリスキリングについて、2023年にパーソル総合研究所の調査では「業務外の学習時間無し」が全体の56.1%となり、とりわけ男性は40歳代以降、女性は30歳代以降に学習時間も意欲も大きな減少がみられます。
製造現場の高度化による中高年活躍の重要性
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製造現場では、AI・IoT技術の進展に伴い現場の高度化が起こっており、設備の理解のほかに、現場に導入された多くの管理情報から生産状況を判断する能力など、作業者にもより高い技術知識が求められようになっています。
特に、現場リーダーの役割は重要となり、目に見えない現場のムリ・ムラ・ムダの実態をデジタルを活用して顕在化させ、改善を行うことで生産性を上げ、現場から利益を生み出すことが期待されています。
急速に進展するAIの導入やデジタル化は従来の設備と同様に、道具に過ぎない面もあり、それらを生かしていくためには、実際に使う人の現場での力量が重要です。
デジタル化は若い世代の人が担当することが多いのが実態ですが、彼らは仕事の原理原則を十分に知っているわけではありません。
現場をよく知るベテランとペアでデジタル化に取り組んでもらうことが重要で、ベテランである中高年もまたデジタル化やAIについて若い世代から学ぶことが多くあり、相互に教え合う関係になることがお互いの成長につながります。
中高年齢層で自己啓発意欲が低い背景
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急速に高度化する現場には学ぶことが多くあります。しかし、中高年齢層は、先ほどのデータのように、自己啓発意欲が少ないように見えますが、その原因にはどのような事情があるのでしょうか。
- 学びは新人や若い人だけがやるものである。
- 手っ取り早く、正解だけ学びたい。
- 現場での経験こそが最も重要な学びである。
- 学びはもともと得意ではない。
- 今のままで十分仕事ができている
先のパーソル総合研究所の調査では、以下のバイアスを指摘しています。
「学びは新人のもの」「現場での経験だけが重要」といった学びを遠ざけるこういったバイアスに加え、中高年齢層は、現役の現場リーダーであり、多忙を極めています。AIをはじめとしたデジタル化に、危機感を持っていないわけではないが、学びと言われても自身の学びに時間を費やす余裕はないという本音ではないでしょうか。
中高年齢層の支出は、一般的には「生活費」+「子ども・親のサポート」+「老後の準備」+「趣味・自己投資」 の4つの柱で成り立っていますが、40代~50代前半 は 教育費・住宅ローン・生活費が中心で、お金に余裕がありません。子供の教育費は自分より優先度が遥かに高いのです。
また、中高年齢層がここまで来た体験の中で、彼らの先輩は自分の学びを共有せずに「秘匿」する習慣があったため、多くの企業で「学び」を職場で共有する機会が育たなかったことも大きな要因と考えられます。
「学び合う組織」で、中高年齢層の自己啓発意欲を高める
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中高年の自己啓発意欲を向上させるために、企業側ができる取り組みには 「動機づけ」「環境整備」「評価・キャリア支援」 の3つの観点があります。
重要なのは、「学ばない組織」から「学ぶ組織へ」を一歩進め、“全員で学び合う組織”へと、組織内に学びを組み込む施策が必要と考えられます。
動機づけ(あらためてリスキリングの必要性を理解させる)
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中高年が「学ぶ意味がある」と感じられるように、全社員にリスキリングの重要性を伝えること
が大切です。
【1】学ぶメリットを明確にする
・「学び直し=会社のため」ではなく、「自分の市場価値を高めるため」と理解してもらう。
【2】「リスキリングは特別なことではない」と意識改革
・「学ぶのは若手だけでなく、中高年にも必要」と伝える。
・経営層や管理職が学ぶ姿勢を示し、ロールモデルとなる
【3】社内の学習文化を醸成する。
・「学ぶことが当たり前」「お互いに学び合う」組織文化を形成する。
環境整備(学び合う仕組みを作る)
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中高年層もふくめ、「学びやすい」と感じる環境を整えることが重要です。
【1】仕事と学習を両立できる制度を整える
・業務時間の一部を学習時間に充てる(週1時間の学習タイム)
・学習費用の補助金制度を中高年が利用しやすいように工夫する。
【2】お互いに学び合う仕組みを作る
・学んだことを職場内で発表する機会を設ける。
・学習仲間を作る。
評価・キャリア支援(学んだことを活かせる仕組み)
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【1】キャリアについて話し合える場を提供する
・スキルなどこれまで大事にしてきた自分の強みをもう1回振り返り、今後組織の中で
どういう役割を果たしていきたいのかを語り合う場をつくる。
【2】学んだことを活かせるキャリアパスを用意する
・「専門職・マネジメント職・新規事業」など、多様なキャリア選択肢を示す。
・「50代でも新しい職種に挑戦できる仕組み」を作る。
・「デジタルスキルを学んだ人が、新規事業チームに参加!」
【3】学習を評価・昇進・給与に反映する
新シリーズ「ものづくり人のためのドラッカー」
~イノベーションは天才のひらめきではなく、明日に向けた仕事である
著者 浅沼 宏和

“ものづくり人“とは、ものづくりに関わる、経営者、技術者・技能者、営業・管理部門までのすべての人を、そう呼んでいます。
この連載はドラッカーの11冊の著書からリベラルアーツとしてのドラッカーをまとめたものです。
どこかに、役に立つ一言が含まれていることと思います。
ぜひ、ご愛読ください。
その45 機会に焦点を当てる
ドラッカーは、3番目にチェンジ・リーダーとなるために、“成功を追求すること”を仕組化する必要性があると指摘しています。これは、体系的廃棄、継続的改善に次ぐ三つ目の仕組みです。
成功を追求するというと、精神的な視線のようにも思われます。しかし、心の持ちようは仕組みで変えることができるのです。たとえば、多くの企業で行われている定例報告をちょっと工夫するだけで、成功を追求する仕組みをつくることができます。
1.定例報告で“機会”に焦点をあてる
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ドラッカーは組織内で行われている定例報告の多くが問題に焦点を当てていると指摘しています。期待したほどうまくいかなかったもの、予想以上にコストや時間がかかった取り組みなどの報告が中心になっている、つまり「問題に焦点を当てている」ということなのです。
もちろん、問題を無視することはできません。問題には、常に真剣な検討が必要です。しかし、チェンジ・リーダーになるためには、問題ではなく“機会”に焦点を合わせる必要があります。ドラッカーは「問題を餓死させ、機会を太らせなければいけない」と言っているほどです。
定例報告においては、必ず機会に触れるようにします。予想以上に成果のあがったものを列挙すればよいのです。売上でも利益でも顧客数の増加でも、成果であれば何でも構わないのです。そうした予想外の成果の中に機会が潜んでいるというのがドラッカーの考えでした。
こうして列挙された予想外の成果について十分に時間をかけて検討することが必要です。
ドラッカーは問題の検討に充てていたのと同じだけの時間を、それらの新しい機会の検討に割くべきであると言っています。定例会議において、必ず予想外の成果のあがった機会について報告し、それらについて検討する時間を設けるという仕組みをつくることが「成功の追求」の具体的行動なのです。
チェンジ・リーダーとして成功を収める組織には、こうした仕組みがあるといいます。検討した結果、有望な機会を見出したら、それをイノベーションにつなげるために優秀な人材を充てるのです。これも「成功の追求」の仕組に不可欠なポイントです。
2.成功の追求の仕組化
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チェンジ・リーダーとなるためのカギは、成功の追求の仕組化です。かつて日本のソニーが家電分野で成功を収めた時期がありました。ドラッカーはその背景に成功の追求の仕組化があったと指摘しています。
ドラッカーによると、ソニーが家電の分野でリーダーシップを握るきっかけとなったのは、テープレコーダの成功であったということです。しかし、テープレコーダはソニーが発明した製品ではありませんでした。ソニーはテープレコーダに新しい工夫を施した製品を生み出したのです。さらに、新しいものを付け加えて次の製品を生み、その製品の成功に何かを付け加えて、次の新製品を生み出していったのです。こうして成功を一つひとつ積み重ねることで、ソニーは世界一の電子機器メーカーへと成長していきました。
ドラッカーは、これこそが成功の追求の仕組化であると主張しています。
成功の追求は、試行錯誤の仕組化ともいえるでしょう。大きな方向性を決めた中で、少しずつ新しい価値を創造していくということです。ドラッカーは、成功の追求は継続的改善と同じように、やがて積み重なって大きなイノベーションのきっかけとなると言っています。小さな一歩が大きな変革につながるからこそ、重要な取り組みなのです。
「継続的改善」は日本の製造業では日常に取り込まれている方針であり、仕組化され、日々実行されている職場も多くあることでしょう。しかし、そのテーマは 「問題発見→その解決」を目的にしていることがほとんどです。「問題」を解決するのか、「機会」をより成果のあがるものにするのか、「継続的改善」の根本が同じようで、まったく、異なることを、私たちはよく考えてみる必要があるようです。
次回 その46「パイロット・テストの実行」
著者紹介
浅沼 宏和
早稲田大学政治経済学部卒、中央大学大学院法学研究科卒、名古屋学院大学 論文博士
「社会制度変容の力学 -内部統制制度・リスクマネジメント・コーポレートガバナンス一体化の論理」
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