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「紙のテキスト、手書きのレポート」の教育効果優位性について /随想 鬼平犯科帳[第10回]
*2026年8月27日(木)
立秋とは名のみの厳しい残暑が続いております。
皆様いかがお過ごしでしょうか。
本日は、
- 「紙のテキスト、手書きのレポート」の教育効果優位性
- 石岡慎太郎(JTEX理事長)による池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』をもとにした「随想 鬼平犯科帳」第10話
について、ご案内いたします。ぜひ最後までご拝読いただければ幸いです。
「紙のテキスト、手書きのレポート」の教育効果優位性について
JTEXの通信教育では紙のテキストと手書きレポートを大切にしています。その背景には、近年、研究が相次いでいる「紙の本を読んで理解し、導いた解答を手書きで書く学習プロセスが、学習効果が高い」という実証研究の結果があります。今回は、この内容について、ご紹介していきます。
紙のテキストを利用した学習について
1. 記憶の定着に有利
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医学・薬学・看護学生を対象とした富山大学の調査で、紙とデジタル機器での学習効果を比較したところ、「記憶」と「集中」において紙が良いという回答が
約75%に対して、デジタルが良いという回答はわずか6%でした。
紙の本は文字情報だけでなく、ページ位置・厚みなどの空間的・触覚的手がかりを提供し、記憶の長期定着を助けます。一方デジタル機器では、画面のスクロールなど紙にはない追加の操作が必要になることから、情報への注意力が散漫になりやすく、記憶への集中の妨げになるのです。
2. 自律的に読む効果
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印刷書籍と電子書籍(パソコン、iPad)を用い、小説と説明文の読みに及ぼす影響について考察した実験があります。人はテキストの種類(小説か説明文か)に応じて読み方が異なっています。
紙媒体は内容に応じて柔軟に読みの過程を変更できていますが、電子媒体ではそのような自律的変化が生じにくいことがわかりました。この違いを「自律的な読みのコントロール」の差であるとしました。
この自律的な読みのコントロールは、本を読む上で重要な要素です。例えば、推理小説のようにストーリーを追いたいもの、物語のように行間を味わうもの、説明文であれば、何度も読み返し、理解を深めようとするなど、より深く実践的に読むことへとつながります。特に、学習の説明文では、紙媒体の方が電子書籍より、はるかに使い勝手がよく、自律的に読むことにつながっています。
3. 書き込みの好影響
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愛知教育大学の研究では、テキストの読解において自由な書き込みを行うことが、文章理解にどのような影響を及ぼすかを分析しました。その結果テキストへの自由な書き込み行為は、下線を引く行為と同様にテスト成績が良く、文章理解に有効であることが示されました。
もちろん電子書籍においてもブックマークやハイライトなどのツールがありますが、紙のテキストに比べ柔軟性に欠けており、自由な書き込みという点では紙のテキストが優れているといえます。
手書きレポート学習について
4. 深い理解を促す手書き
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米ジョージアサザン大学の研究では、学生に講義を見せて、手書きもしくはタイピングでPCに記録する場合を比較しました。その結果、タイピングの学生より、手書きの学生の方が、一貫して学業成績が高いことがわかりました。
タイピングは記録される単語数や情報量が多いものの講義内容をそのまま入力しがちな一方、手書きは講義内容を自分の言葉で言い換えながら記録する傾向があり、これがより深い理解を促します。
5. 新たな思考や創造の可能性
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東京大学やNTTデータ経営研究所などの共同研究において、スケジュールなどを書き留める際に、スマートフォンなどの電子機器と比較して、紙の手帳を使った方が、記憶の想起に対する脳活動が高くなることが発見されました。
紙の学習では、紙上の場所や書き込みとの位置関係といった視覚情報を、同時に関連付けて記憶する連合学習が生じます。想起の際の手掛かりが豊富であるため、記憶の定着に有利であることに加え、記憶を元にした新しい思考や創造的な発想に対しても、役立つと言えるでしょう。
6. 「読む×書く」累積効果
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東京大学の学生を対象とした調査では、本や新聞・雑誌を読む人の方がより多様な場面で日常的に書く傾向にあり、日常的に書く人の方が本や新聞・雑誌をより長時間読む傾向にあることから、読むことと書くことの高い関連性が見て取れます。
また講義内容を記録する人や、本や新聞・雑誌を普段読む人の方が国語の読解問題の成績が高く、日常的なメモの取り方や読書習慣は、文章の読解力や論理的な思考力に関係することが示されました。
おわりに
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デジタル化によって、紙の本を読み、手書きで書く機会が減りつつあります。そんな中、JTEXでは紙のテキストを読んで内容をしっかり理解し、レポートを書いて知識を身に付けることを目指してもらうため、あえてアナログな通信教育を提供しています。
JTEXには技術知識がテーマの講座が多く、動画講習やeラーニングでは十分な解説ができない、全体像を示しにくいなどの事情もあります。また、上記のように、紙の教材の力を信じているからです。
紙の本を読む習慣を持たない方や苦手意識を持つ方もいます。通信教育のレポート課題は、そういった方々にテキストを読んでもらうための導きの役目をもっています。
紙の書籍は人類にとって何千年も親しんだものですが、デジタル教材の活用はまだわずか数十年に過ぎません。人の身体構造がまだデジタル教材に合致していないと考えられます。
もちろん電子書籍や動画学習などの技術も発展途上であり、今後使いやすいツールや学習効果の高いコンテンツも出てくるかもしれません。また、学習目的によっては手軽なオンラインセミナーや動画教材がふさわしいテーマがあります。JTEXではそれらの動向を注視し選択しつつ、今後とも、受講者の皆さまに質の高い学習環境を提供したいと考えております。
- 1.山田正明、関根道和「紙vsデジタル学習:ディープラーニング(深い学び)は紙が良い デジタルは覚えにくい、集中しにくい、眼に負担」2022
- 2.原田悦子,須藤智,森健治「「読む」行為と紙/PC/タブレット端末:説明文と小説の「読み」の比較から」2011
- 3.野崎浩成、吉橋彩奈、梅田恭子、江島徹郎「テキストへ の自由な書き込み行為が文章理解に及ぼす影響」2005
- 4.Abraham E. Flanigan, Jordan Wheeler, Tiphaine Colliot, Junrong Lu & Kenneth A. Kiewra 「Typed Versus Handwritten Lecture Notes and College Student Achievement: A Meta-Analysis」2024
- 5.酒井邦嘉、梅島奎立、茨木拓也、山崎 崇裕「紙の手帳の脳科学的効用について~使用するメディアによって記憶力や脳活動に差~」2021
- 6.一般社団法人応用脳科学コンソーシアムほか「デジタル時代の学生に対し読み書きの実態を調査~「書く」ことと「読む」ことの累積効果が明らかに~」2025
鬼平犯科帳連載について
JTEXメールマガジンでは、石岡慎太郎(JTEX理事長)による池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』をもとにした「随想 鬼平犯科帳」を1話ずつお届けします。
息抜きにご一読いただければ幸いです。
池波正太郎氏は作者は19歳のとき(昭和17年)、小平の国民勤労訓練所(戦後の中央職業訓練所)に入り、萱場製作所で2年間、四尺旋盤を使って飛行機の精密部品を作り、そのとき体で覚えたものつくりの手順で、『鬼平犯科帳』を書いたといいます。
このように、この小説の背景は意外に深く、皆様もこの作品から学ばれる点が多いと思います。

第10回 炎の色
『鬼平犯科帳』は、もとより鬼平の盗賊追捕の物語であるが、密偵のおまさが人間として成長してゆく物語にもなっていると思う。
鬼平は20歳ごろ、継母と折合いが悪く、元盗賊であるおまさの父の家を根城に本所・深川で放蕩無頼の日々を送っていたが、10歳くらいのおまさはそんな鬼平に恋心を抱く。その後二人は別れ別れとなり、おまさは盗賊の世界へ入ったが、鬼平が長官になったと聞いて、(どうせ足を洗うなら長谷川様のために働きたい)と20余年ぶりに鬼平に会い、密偵となった(『血闘』文春文庫4巻)。
そんな気持ちのおまさは一生懸命働き、女性に厳しい鬼平に「女は皆同じようでいて、男なみの仕事をさせたときにちがってくるのだ」と言わせる(『おみね徳次郎』4巻)。
しかし、ある事件でおまさは昔愛した盗賊・二代目狐火の勇五郎と再会、堅気となる狐火と夫婦になって京へ行くが死別し、また密偵になるという波乱もある(『狐火』6巻)。
そして、おまさが女賊の盗人宿の前の家で、鬼平の信頼の厚い密偵・五郎蔵と夫婦をよそおって見張りをした時のことである。ひと月くらいいっしょに暮らした夜、二人は自然に結ばれるが、このときおまさは、(これでいい、これでいいのだ)と自分に言い聞かせる(『鯉肝のお里』9巻)。
こうして二人は鬼平の媒酌で夫婦となったが、五郎蔵の女房としての心と、少女が胸に秘めてきた鬼平への思慕とは別である。今のおまさは、頼もしい夫・五郎蔵と力を合わせて、鬼平のために働ける後半生を得たことに(なんというしあわせな女なのだろう)と感じる(『迷路』22巻)。
おまさが大手柄を立てたのは、女賊・荒神のお夏の事件であった。偶然、旧知の盗賊・峰山の初蔵に出会い、助力を求められたおまさは、お夏の信頼も得て、箱崎町の醤油酢問屋へ引込女として入り込む。そして、問屋へ押し込んだ荒神・峰山一味はおまさの情報により、一網打尽となった。鬼平は「いや見事な働きじゃ。お前がこれで平蔵の立派な片腕になってくれたな」と言う(『炎の色』23巻)。
さらにこのとき一人逃げたお夏が、その後人を使って裏切ったおまさを誘拐しようとする。これに対し、「お夏は江戸に放火する恐れがあり、それを探るために誘拐されてみる」というおまさの使命感に、鬼平は感嘆するのであった(『誘拐』24巻)。
以上、『炎の色』や『誘拐』のおまさは、鬼平に代わって主人公になった感がある。女性に厳しい池波がこんなふうに書いたのは、ある映画の影響もあったのではないかと思う。
『銀座日記』(新潮文庫)を読むと、池波は昭和61年8月30日封切りの『エイリアン2』の試写を見て、「7年前に『エイリアン1』を見た時のショックは相当なものだったが、今回も女優・シガニー・ウィバーの迫真の演技にただ見とれるばかりであった」と感心している。『炎の色』は、この頃の「オール読物」(昭和61年8月号~62年1月号)に連載されたものである。
また、平成元年5月20日封切りのウィバーの『ワーキング・ガール』の試写を見て、「会社の男女差別がよくわかり、約2時間少しも退屈しなかった」と共感している。『誘拐』はこの後の「オール読物」(平成2年2月号~4月号)に連載されたが、作者死亡で未完となった。

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